偽りのヒーロー
中間考査の結果には驚きを隠せなかった。冗談めいた菜子の宣言はあと一歩で敗れたものの、
「うわー、菜っ子に負けた!」
「やばい、本当に直っぴ抜いちゃった……」
「2位じゃん! すごいよ」
輝かしい功績に、自分のことながら、何度も掲示された名前を見て目を擦った。
3者面談は、一番最後の時間に振り分けられていた。親の都合で予定が組まれた時間面接の割り振りは、17時半から。図書室で時間を潰して、今か今かと父が来るのを待ちわびていた。
父と教室に入ろうとすれば、面談をしに向かって来た担任の加藤が「大和くんばいばーい」「加藤先生!」と慣れたやりとりが聞こえてきた。
それを横目に向かいあった席につけば、面談が始まった。
「葉山さんは成績も優秀ですし、このまま志望校に向かって勉強してくれれば問題ないですね。今回は順位を上げていますし、それは素晴らしいですね。トラブルさえなければ」
「ト、トラブル……」
「なんだ、葉山」
「いや、はい。す、すみません」
「このたびは娘がご迷惑おかけしたようで……」
爆弾みたいに突然飛び出した先生の言葉に、菜子は肩身が狭くなっていた。先生は笑っていたが、父は頭を下げていた。それに倣って慌てて頭を下げると、勢い余って鈍い音がした。
志望は国公立、共学の4年生の大学。教育学部を希望している菜子は、家から通える2つの大学を志望していた。どちらも国公立。
滑り止めに近くの私立を受験するか、地方の国公立に目を向けるか、そんな話をしていた。
基本は現在志望している2校を中心に、センター試験に向けて頑張りましょうという内容。
志望校があらかじめ決まっていたからか、拍子抜けするほどにあっさりと3者面談を終えてしまった。菜子の学校での態度などの談笑を交えた面談は、20分もかからず終わってしまった。
面談終了後は、父と帰路を共にする。その前にお手洗いに向かおうと、菜子は席を立った。
「お父さん、私トイレ行ってくるから、下で待ってて」
そう言って席を立った菜子には、父と先生の会話を知る由もなかった。