偽りのヒーロー
「久しぶりだなあ、大和。加藤になったのか。結婚か? 離婚か?」
「……お久しぶりです、先生。離婚、です」
「そうか。頑張ったなあ」
「……やめてくださいよ……」
加藤が現在勤めるこの高校に赴任してきたのは、4年前。
3年前、この学校に勤めて2年目になったとき、入学式で目を疑ったのは記憶に新しい。
高校のときの、年上の同級生に瓜二つの女生徒が座っていたからだ。
担任でもないのに、その生徒を受け持つ教師から名簿を借りて目を通せば、すぐに納得できた。
その生徒は葉山菜子。
年上の同級生と、当時の副担任をしていた若い男性教諭と結婚したというのは、高校を卒業してから知ったことだった。
高校に入学にてすぐ、この教師は舐めてかかってもいいやつだと標的にした、葉山創志(はやま そうじ)。当時はまだ独身だった、童顔のいかにも温室育ちみたいな性格をした教師。
当時、大和は思春期よろしく荒れに荒れていた。深夜徘徊で、なんどか警察のお世話になったこともある。
それも全部、家に帰るのが嫌だったからだった。
家に帰れば暴力ばかりをふるって、ろくに親の責任を果たさない父。泣いて目を腫らした3つ下の妹が怪我をしないように、文字通り身体で守った母。
今でも父が大嫌いだ。あれが親だと思うと嫌気がさすほど。
ストレス発散だったのかもしれない、父は血を分けた実の息子を殴りつけた。頬に残った大きな痣。
接客業をしていた当時、度々その顔で客前には出せないと怒られてしまった。
初めはマスクで対処した顔も、目を殴られて鼻を殴られ。
捲った袖から出た痣が隠せなくなった頃、「事情はわかるけど、これだと仕事させられないよ」と、申し訳なさそうにバイト先の店長に言われてバイトを辞めた。