偽りのヒーロー
なんでこんなに父にひどい目にあわされているのに、母は別れないのだろう。
そんなことを思っていた。けれどその理由は簡単。父がそこそこいい会社の正社員だったから。パートだけでは、満足に育てられないと、我慢している母の気持ちなんて、ちっともわからなかった。
高校を出れば就職して家を出ようと思っていたが、妹と母を残していくのは気が引ける。それどころかもっとひどいことをされるかもと思えば、何も口を出すこともできなかった。
妹や母を殴るのは止めてくれといったら、その日、みぞおちに大きな一発を食らった。息ができなくなるほどの衝撃で、妹も母も怯えていた。
それでも絶対に自分からは殴ったりはしなかった。このクソ親父と、同じく思われたくなかったから。
少しでも家に居る時間を減らそうとバイトを始めたのに辞めさせられる始末。そうすれば、学校にいるときだけが安寧の場だ。
鬱憤を晴らすためにつるんだグループはいわゆる不良グループだった。それでも暴走族でもなんでもない。学校で言われる、いわゆる問題児に分類されるような生徒。
「橘川ー。お前髪どうした」
金色に染め上げたやんちゃな髪を、当時どの先生も黒く染めろと言っていた。うるせえ、と何度言ったことだろう。なのに、この葉山先生だけは、金色の髪に興味を示しているようだった。
「大和はなんで金髪なんだ?」
「や、これ地毛だから」
そんなわかりやすい嘘にも、そうか、と笑っていたとき、もう高校2年生になっていた。
また先生の説教かと、ため息をつけば、「金髪だと見つけやすくていいなあ」と呑気なことを言う教師に苛々した。
そんなある日、家に帰るのをためらっているとき、深夜徘徊で補導されてしまった。
家に帰るには、親に連絡をしなければならないという。
そんなことをしたら、きっと母の躾がなっていないとかどうとかで、力ない女を殴るのだろう。自分は躾の一つにも関わっていないくせに。
そんなとき、親に言わないのなら、学校に連絡する、と困り顔の警察官を見て、葉山の顔がよぎった。
がみがみ親父の担任と違って、ゆるゆると副担任。
緊急連絡先だと聞いていた二人の番号を見て、葉山の携帯の番号を警察の人に言った。