偽りのヒーロー
夜中であるのにも関わらず、すぐに葉山は駆けつけてきた。
ぜえぜえと息を切らして、すみません、ご迷惑をおかけしました、なんて頭を下げる男の姿は初めて見た。
「家、帰って大丈夫なのか」
度重なる父の暴力を心配して言ってくれたのだろう。それでも縦にも横にも首を振ることはできなかった。
なんで今まで先生に相談しなかったんだ、と言われた。言ったところで、解決なんかしないから、ただそれだけだ。相談したことがわかったら、父にまたこっぴどく殴りつけられる。
このときはじめて家庭に学校が介入してきた。
「大和、今度の二者面談、三者面談って言って、お母さんと来れるか? 妹さんが一人で家にいるのが難しいなら、連れてきてもいい」
そう言われたのは、2年の秋頃だった。
偽りの三者面談は、担任と副担任、そして母と大所帯で行われた。なんとなく、妹を連れてくるのは躊躇してしまって、理由をつけて友達の家に泊まれと命じた。
「まずはお母さん、いろいろと大変だったでしょう」
二人の教師は労わりの言葉をなげかければ、ぼろぼろと大粒と涙を流す母にぎょっとした。やはり耐えに耐えていたのだ。そのひ弱な体で、二人の子供を、必死に守るために。
パートをしている母より、大企業の父の方が給与の取り分がいいのなんて当然だ。それでも学生なりにバイトすればなんとかなると思っていた。
けれど実際は、怖くて別れらないなんて言うのは、その日、初めて知った。
幸い、母は被害者だ、示談に持ち込めば、おおよそ費用もかからない。まだ義務教育中の妹もいる。養育費もとれる。
それでも自分にはわからないほど、母はずっと怯えていたようだった。
教師らの話によれば、高学歴の父にならば、きっと大学進学を拒まれることはない。
髪を金色に染めているわりには成績はそこそこ。余力があるのならば、勉強したら国公立にも行ける。とにかく理由をつけて、家を出たほうがいいと必死に母を説得していた。それでもすぐに母は実行に移すことはしなかった。
その理由は、大和が3年になってからわかったことだった。