偽りのヒーロー
「ご家族は今どうしてるんだ?」
「元気にやってます。妹は保育士してますし、母はスーパーで働いてますよ。レジ打ちだったはずなんですけどね、いつのまにか統括マネージャーっていうのになってますよ」
「そうか。すごいな!」
離婚をするにも骨が折れた。
二十歳になるまでの養育費は、もうあとわずかということもあって、きっちりと支払われたのは、さすが大企業様といったところか。
あんなに苦労したのにも関わらず、ニュースにもならない、新聞にも載らない。それでも母はとても嬉しそうだった。父にも未来があるから生きづらくなるのは嫌だからね、なんて甘やかすのもいいところだ。
示談金も支払われたが、家庭裁判所と言う場所で何度も言われたのは、「離婚したくないとおっしゃってます」。
母は動じていないようだったが、大和においてはどの面下げてそんなことを言うのかと思った。
それでも離婚を決意したのはわが子を守るためのもの。
養育費等々があるものの、高校を卒業してすぐに働こうと思っていた。3年になった大和を、葉山が何度も説得していた。
「お前は世話焼きだから、教師、向いてるよ。本当に就職でいいのか?」
「金がかかるんで」
「お母さんに、相談したのか」
相談は、していなかった。迷惑をかけたくなかったからだ。それに妹のこともある。
母には言うのを躊躇っていたようだが、女子高に行きたいと大和には打ち明けていた。けれど女子高なんて、どこも私立。金もかかる。
であれば、自分が働けばいいだけの話だ。
それでもあきらめずに何度も何度も大和を職員室へ呼んだ。
とっておきの秘策があると言われた翌日、とうとう母に本当い就職希望なのかと言われた。
本当は、大学に行ってみたいし、教師というものにも興味がある。けれどお金はかかる。それを打ち明ければ、初めて母に怒られた。
「大和がやりたいことをしてほしいのよ。私はそのために頑張りたいのよ」
「……よく言うよ。今までだって大変だったろ。椿だって女子高行きたいって……」
「そのための養育費でしょう」
「……でも……」
「でもじゃないの。子供の夢を応援したいのよ。それが私の夢なの。頑張れるわよ、大和が守ってくれたおかげでね。私もまずは正社員を目指すわね」