偽りのヒーロー
就職クラスというのは、4月に入ってからが慌ただしい。中間テスト、期末テスト、一学期の成績が就職活動に多大な影響を与えるのだ。
7月に入ってから開示される求人票、慌ただしく始まる9月の就職試験。8月の夏休みはほとんど面接の練習や企業の説明会に消費される。
遊ぶひまなんて微塵もないがちょうどいい。少しでも、何かに没頭できて、恋患いとやらから意識が逸らすことができれば。
意識しなくても顔を合わせていた数か月前とは違う。今は意識的に行動しなければ、菜子の顔など見ることもできない。
離れた下駄箱、離れた教室。
自然に顔を見ることもできないから、外で行う体育の授業のときだけは、移動するたび窓際の菜子のを必死で目に焼き付けていたけれど。
そうやって菜子を目で追いかければ、菜子と紫璃は、前後の席のようだった。
学校の外でも中でもイチャイチャできていいですね、はいはいはい。
嫉妬しつつも健全な男子高校生だ、俺がもし菜子の席だったら、きっとまず舐めまわすようにその後姿を目に焼き付けるだろう、なんて妄想していたら、先生からぼーっとしているな、と怒られてしまった。
菜子にあげたクリスマスプレゼント。
別にお返しなんて期待していなくて、ただただ菜子に自分のことを考えてほしいと思ってあげた入浴剤。
それには律儀にもお返しが渡されて、開けてみればコンビニ菓子とは一線を画すようなチョコバーが5本、入っていた。
嬉しくなって、菜子からもらったそのチョコバーを、毎日毎日眺めていた。
箱を開ければ漂う甘い匂いで、すっかりチョコの匂いで菜子を思い出すようになってしまった。
貴重な一本を口に入れれば高価な味がして、噛みしめるように食べていたけれど、机の上に置いていたら、いつのまにか2本なくなっていて、盗み食いの犯人の姉弟たちと喧嘩をした。
それから一つ、自分で食べたけれど、賞味期限が過ぎてしまった今でも、残りの一本を残してしまっている俺を、ばかだと笑ってくれ。