偽りのヒーロー
あれは4月も半ばだったか。
ゴールデンウィークが近くなって、長い休みを目の前に浮かれていたら、クラスメイトからの連絡に、携帯の画面がピカピカとひっきりなしに着信を伝えていた。
送り主は、2年のときから一緒のクラスだった男の友人だったが、その文面には、なぜか下駄箱に溜まる野次馬の写真が添えられていた。
人居すぎてよく見えねーけど、なんか菜子が喧嘩? してるっぽい
既に学校を出たあとで、まったく状況がつかめなかった。
家に帰ったその足で、カバンだけを置いて、制服を着替えることもなく、ダッシュで学校に向かっていた。
学校に舞い戻れば、人もまばらだったが、ざわざわと、3年生の下駄箱の配置されている場所に人が集まっていた。そこの床はなぜか水で濡れていて、他の足場よりも色濃くなっていた。
菜子の携帯に着信を入れた、電話に出なかったから、ラインもした。それでも既読がつくことすらなくて、紫璃に連絡をした。
彼氏だったら恐らく何か知っている、もしくは今一緒にいるかもと期待したが、紫璃は電話に出なかった。
菖蒲ちゃん、ミッツ、直っぴ……片っ端から連絡しても、誰も電話にでてくれない。
とにかく菜子の家に突撃してしまえ、とオートロックのことも忘れて菜子の家に走った。万が一いなくても、ミッツに会うことくらいできるだろう。
そうやって、ミッツの家に行ってみれば、エントランスのガラス戸をくぐってきたのはなぜか直っぴだった。
「あれ、直っぴ……。菜子は? 菜子がなんか、喧嘩したとかって何? 知ってる?」
そうやって直人の身体をがくがくと揺さぶれば、困ったような顔をして、帰宅を促されてしまった。
「大丈夫だよ。菜っ子疲れてるみたいだから、今日は休ませてあげて」
「でも……」
「……手、怪我したみたいだけど、大丈夫って言ってたから。あとで、また、ね」
「怪我したの!?」
「……うん。でも、今日は、休ませてあげよ。ね」
ぐいぐいと優しくもぐいぐいと背中を押されて、なんの収穫もないまま帰路につくことになっていしまった。
怪我をした、ということだけはわかったけれど、もう何がなんだかわけがわからなくなっていた。
なんだよ、ちくしょう、なんで。
帰り道、歩くその足が重かった。
蚊帳の外の自分。菜子のことを何も知らない自分。
いやだ、菜子のことはなんでもいいから全部知りたいのに。隣に、ずっと、いたいのに。