偽りのヒーロー
一時騒然としていたらしいその騒ぎも、中間テストが終われば、何もなかったかのように過ぎ去っていった。
それだけではない。
就職活動のために、100番を目指せと先生から助言されて、その頑張った成果を見るために、張り出された掲示板を見てみれば、煌々と2の数字の下に菜子の名前が記されていた。
動揺してたんじゃないのかよ。それとも自分だけが、勝手に動揺していたのか。
もどかしい。何もかも。
やっぱり、遠くから見ているとかそんなことは自分には向いていない。
「菜子!」
会えなければ、無理やりにでも会うしかない、行動するのみ。そうやって、考えるより先に身体が動いて、菜子のいる2組の教室に来てみれば、当然のことながら、紫璃が目を丸くしてレオを見ていた。
しまった。男と二人で、しかもあのやきもちやきの紫璃の目の前で、菜子を誘うなんて、さすがに考えがなさ過ぎた。
がらっと教室の扉を開けてようやく、思考回路が回り始めた。
後悔先に立たずというが、その通りだ。とぼとぼと自分の教室に帰ろうとかたを落とすと、その足を菜子の声で再び振り向いた。
「何?」
廊下に出てきた菜子が、なんだかわからないけれど、光って見える。目の錯覚だとその瞼を擦りあげると、今度は花びらが待っているように思えた。
もじもじとしたレオを見かねてか、「行こ」と手をこまねいて人目の気にならない場所へ連れ出してくれた。
菜子から二人きりになるシチュエーションに持っていってくれるなんて、予想だにしておらず、足元がおぼつかない。
ようやく望んで二人きりになれたのにも関わらず、久しぶりの雰囲気になんだか鼓動が早くなってしまって、口を出た言葉は、話したいこととは違うものだった。
「に、2位ってすげえじゃん。やっぱ菜子頭いいんだなー」