偽りのヒーロー



 素っ頓狂なレオの会話にも、「今回すごい勉強したからね!」と快活な笑みを向けられて、見惚れてじぃっと菜子の顔を見てしまっていた。



「レオ! ちょっとストップ! 顔近いから!」



 いつのまにか食い入るように菜子を見てしまったその体勢を、菜子の手で押し返されてしまった。それでも触れてくれるのさえ嬉しいと思うのなんて、やっぱり、この気持ちを止められない。



「……なんで怪我までしてんのに笑ってんだよ」



 けたけたと茶化すような菜子の口ぶりも、わざとだってわかっている。告白した俺の本気の気持ちを受け流すような、菜子のずるさなんて、俺にしてみたら可愛いものだ。

 大丈夫だっていうその手も、包帯が目立つからと大きな絆創膏になっていたけれど、その傷口は塞がってはいても、縫い目なんてまだくっきりと見えている。

「手相が一本増えたみたいでしょ」と気丈に振る舞うその明るさも、俺なら泣かせてやれるのに。

悲しいって泣き喚いたその細く柔らかい背中を、抱きしめたいのに。









「紫璃と別れたってほんと?」



 どこからそんな話を聞いてきたのだろう。テストが終わって、面談も終わって。

一息つけそうな安息の場は、菜子にはまだ与えられていない。

レオの目があまりにも真剣に見開かれていて、瞬きひとつしないその青い目に、自分の姿が鏡のように写し出されていた。



「……誰から聞いたの?」



 しっかりと、紫璃と別れたその事実を、確信しているふうには見えなかった。

風の噂。きっとそうだ。

ちらりと数人の友人たちに「紫璃と別れたの?」と聞かれたのは、事実だし、朝マンションの前であった愁ちゃんには、「彼氏略奪されたの?」なんて誇張された疑問をぶつけられた。

誇張、というより事実なのかもしれないけれど、どこまでそのことが広がっているのかなんて、皆目見当がつかない。


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