偽りのヒーロー
一年生には、バイオレンス痴話げんかをしたなんて、面白おかしく言われているようだし、キャットファイトだフードファイトだ、なんだかよくわからないあだ名をもつけられている。
萩ちゃんは、その噂に爆笑していたのが、まだなんとか折れない心を持たせてくれる。
「ほんと?」
確認するようなそのレオの言葉には答えられない。
その真剣な自分の映す眼差しも、心配してくれたのかわざわざ家まで来てくれたことも、「俺にすればいいのに」と呟くような、その小さな声も。
うぬぼれだと思われてもいい。自意識過剰だと思われてもいい。レオが、自分に向けていた好意を持っていることが、ひしひしと伝わってくる。
そんな人の前で、堂々と、別れたよ、というのも考えものだ。それとも、言った方が、正解なのか。ううん、知られていないなら、言うべきではないと思う。
「さあね! そんなことなら教室戻ろ!」
スカートをパンパンと叩いて、立ち上がろうとすると、レオは納得がいかないと、その場を離れることはなかった。菜子の腕を優しく掴んで、離れないように、必死につなぎとめて。
「……レオ、好きならそれは、もうやめて」
どこの高飛車な女だよ、と思うほどの言葉が出た自分自身に驚いた。レオの瞳が、わずかに揺れていたけれど、それは見ないふりをした。
「やめなかったら、どうなるの」
「……必要以上に話さない。こうやって、二人で会うこともない、それから……」
「やだ」
菜子の言葉を遮るように、レオは俯いて呟いた。再び「やだ」と呟くと、俯いていた顔をあげて、菜子の目と視線を合わせた。
「好きなんだから、止められない」
「……レオ」
「紫璃とつき合ってたって好きだったんだ。別れたなんて知ったら止められるわけないじゃん」
「……それでも、むりだよ。レオの気持ちには応えられない」
期待させるのは、よくないと思う。
知らないふりを、完遂する器用さも持ち合わせていないから、はっきりと突っぱねることしかできないのに。
「じゃあ、何度でも言う」
「何言って……」
「何度でも言うよ。菜子の心に届くまで」
レオの言葉を覆せるような言葉が出て来ない。黙ったままの菜子に、追い打ちかの如く言葉を続けた。
「菜子。好きだよ」