偽りのヒーロー
「あ、花! いつもありがとう、買いに来てくれて。あれは彼女に? あ、でも自宅用に包んでるか……」
「んなことするわけねえだろ。あれ家用。女は花よか財布とか時計のが喜ぶだろ」
「え、学生だよ? そっちのが引かない? 何万とかしそう」
「それでもそっちのがいいんだろ。金あって顔が良ければ、女はそれでいいんだろ」
「す、荒んでる……」
率直な菜子の感想に、結城はけたけた笑っている。
くだらない話で時間が過ぎると、トレイの上にある食べ物をぺろりと平らげた。ハンバーガーの包みを畳むと、「そろそろ出るか」と、菜子のトレイも一緒に持って席を立つ。
「あ、ありがとう」
「ん? 何が」
あまりに自然な仕草なレディーファースト。無意識にやっているのだとしたら、金とか顔とかそういうのではなくて、こういうところが女心をくすぐっているのだろうなと菜子は納得していた。
「葉山は夏休みもバイト?」
「うん。毎日ってわけでもないけど」
「ふーん」
家路に着くのもあまりに自然な流れで、菜子は突っ込みどころを見失ってしまっていた。
『家どこ?』
『本町』
『電車?』
『うん』
『何駅?』
『3駅』
『じゃあ歩いて行けるか』
「送って行く」なんて、わかりやすい甘く優しい言葉がないのに、こんなにも自然に並んで、送ってくれていることに菜子は驚きを隠せない。
「私、今、結城くんのことめっちゃ尊敬してる……」
「なんだよ、いきなり」
突拍子のない菜子の言葉に、結城は訝し気な目を向けていた。物珍しそうに見る目が、先ほど結城に向けた菜子の視線と重なるようで、今に至る。