偽りのヒーロー
action.31
夏休みを迎えると、補講もあって、毎日学校へ足を運ぶ。
高校生活最後になった夏休みは、慌ただしくも充実している。
進学クラスの補講に、就職クラスの面接練習。
就職クラスに至っては、求人票が開示されたようだから、いの一番の忙しさを見せていた。
「菜子、お願いがあるんだけど!」
顔の前で両手を合わせて、菖蒲は眉をハの字に下げていた。聞けば、夏祭りに行きたいという話。
快諾した菜子を見て、ほっと胸を撫で下ろしたようだったけれど、何をそんなに意気込んでいるかと思えば、原田に誘われたということだった。
「えっ、それ私行ったら邪魔でしょうよ……」
後ずさりをするように、身体を少しのけぞらせる菜子に、焦ったように首を振っている。
「違うの! あのね、原田くんが浴衣って夏っぽくていいよねって言ってるの聞いちゃって……」
「うん、え?」
「私一人で浴衣着ていくのなんか恥ずかしくて……」
もじもじと顔を赤らめている菖蒲に、菜子は驚きを隠せていなかった。
「えっ、菖蒲……。直っぴとつき合ってんの!?」
「違う違う! まだ……」
「ふーん、まだ、ねえ〜」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべれば、ぱたぱたと赤くなった顔を手で仰いでいた。
当日は、菖蒲の家から夏祭りへ行くことになった。浴衣に合わせた髪の毛のアレンジも、美容師をしている菖蒲の母にしてもらえることになって、意気揚々としていた。
直っぴもなかなかやるじゃん、なんて考えていると、3人というおさまりの悪い人数に、わずかな気掛かりには、菖蒲が大丈夫、と笑っていた。