偽りのヒーロー
「なんでレオがいるの!?」
菖蒲をじっと見てみれば、首を傾げて困惑した表情。どうやら菖蒲も知らなかったらしい。菜子の焦りをぶつける矛先は、たちまち原田に代わり、その肩をがくがくと揺さぶった。
「ごめん、菜っ子。未蔓誘ったんだけど……『俺無理。今日ばあちゃんち行くから。お盆玉くれるんだって』って……」
「しまった……。未蔓んちよって来ればよかった」
後悔先に立たず。にこにこと満面の笑顔を浮かべるレオの顔が、あまりにも眩しい。
菖蒲、直っぴ、レオ。このメンバーなら、自然と菜子の隣を歩くのが、レオになってしまうのは、避けられない。
苦笑いを浮かべる菜子のことなど気にもせず、浴衣を着た菜子の姿を焼き付けるように眺めていた。
「そんなじろじろ見ないでよ。あ、何? かわいい?」
ニッと浮かべた笑みは、冗談のつもりだったけれど、レオは顔を真っ赤にしていた。
「……うん。すげえ可愛い……」
改まって褒められるとは思わなかった。気恥ずかしい雰囲気は、俯いた菜子の顔を赤く染めた。
「……冗談だよ、ばか」と素っ気なく言えば、レオは満足気に菜子を見つめていた。
夕食代わりに食べた焼きそば。物足りなくて食べたフランクフルト。
食い意地を張ったように、かわいい夏祭りの象徴のヨーヨーみたいなものには目もくれず。
かき氷も食べたいし、いちご飴も食べたいし、花火の上がる時間までは、まだ時間に余裕がある。
花火こそ夏祭りのクライマックスと言えるし、そこはかとなく恋人の距離を縮めそうないい機会。それはあと一押しで恋人に変貌を遂げそうな曖昧な関係の人にも言えること。
人混みの中でレオに口裏を合わせれば、控えめに呟く「やった!」という言葉に、なんとも後ろめたさを感じたが、それは仕方がない。
進むところ、どこに行っても人がいる。集まった人たちのむせかえるような熱気で、少しだけ腰を下ろして休みたくなった。
慣れない下駄の鼻緒で、わずかに足が擦れていたけれど、そんなときのために、しっかり絆創膏を持ってきている。
可愛げのない準備万端の救急セットも、時折擦れ違う、足を引きずって男性の腕に寄りかかりながら歩く女性を見て、いらない用意周到さなのかもな、と思わずにはいられなかった。