偽りのヒーロー




「……菜子」



 握ったレオの手は、いつのまにか離れないようにと指が絡められている。それを拒否しないずるさ。気持ち悪い。自分自身がこんなにも醜い女だったなんて。



「真面目すぎるよ、お前」

「違う……。違う、ずるいんだよ、逃げてばっかで何にも真面目なんかじゃない……」

「……真面目だよ。俺がばかって言えるくらい」



 そうやって、絡めた指が解けられたかと思えば、レオの大きな胸のなかにすっぽりと収まった。止まらない涙が、レオのシャツに染みをつくってしまって、身をよじる。

抵抗なんてまったく意味も解さず、レオの手のひらが、泣いて崩れた両頬を包み込む。



 重なったレオの唇が、熱い。時折光に照らされてはっきりと見える目も、悲壮を抱えて揺れている。



「……レオ!」



 ようやく離れたレオの唇が、真一文字に結ばれていた。



「ちょっとくらい、ずるくなれ。紫璃のこと、俺で消すくらい、そんなのずるいって言わない」

「嫌なの! それは、やなの。私が嫌って思うこと、レオにするの……? そんなの最低だよ……」

「俺がいいって言うなら何も問題ない」

「……あるよ!」



 何度言っても答えに辿りつかない攻防は、苛立ちに似た感情を湧きだたせる。何度言ってもくそ真面目な。

こんなときくらい、目の前の男に縋って、「紫璃のこと、考えられないくらいにいっぱいにして」なんて甘い言葉で誘ってくれたら飛びつくのに。


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