偽りのヒーロー
夏祭り、菜子と共に縁日に行けたのは、偶然だった。
菜子は望んでないことだっただろうけど、いわば棚からぼたもち。運命なんて言葉をひけらかしたくなるほどに、それほど浮かれていたのは事実だった。
見たことのない浴衣姿。意外に熱いから、なんて、パタパタ手で仰ぐのも可愛くて、目が釘付けになってしまったのが、昨日のことのようだ。だから、記憶に新しい。
菜子が、そんなに紫璃を好きだなんて思ってもみなかったから。
「レオのことは好きにならない」
「好きになるのは、もうやめて。レオの気持ちには、応えられない」
体がいうことを聞かなかった。まっすぐな凛とした言葉が、魚の骨みたいにひっかかって、今も尚、胸が痛い。
何度もこの想いを告げたら、いつかとどくと思っていた。可能性を信じていた。それは、恋人ではなくても、菜子が心を許してくれていると思っていたからだ。
ミッツとか、直っぴとか。菜子だって仲のいい男友達だっている。それでもそこに名乗りをあげても負けないくらいには、可能性があると思っていたのに。木っ端微塵に、砕かれた。
怪我をしたときだって、会えはしなくとも、その気持ちが伝わっているとは思っていた。
あのときは、ざわざわと同級生たちが噂をしていたから、本当に別れてるとも思わなかった。
我慢も何もきかなくなって、想いを吐露してしまったけれど、それに菜子は答えてくれなかった。
どうして菜子が、少しでも受け入れてくれる、なんて考えていたんだろう。
あのときは、きっと紫璃と別れて間もない頃だったから、気持ちの整理がついていないのだと思っていた。今になれば、きっとどこかに入る隙間の一つもあると思っていたから、困惑した。
俺が入る余地がないくらい、せき止める方法なんてないくらい、涙を流した紫璃のこと。