偽りのヒーロー
レオ。レオは、本当にいい人なんだよ。
私になんか、時間を使うだけ無駄になる。時間には、限りがあるからね。
いつ向くかも、向かないかもしれないそれを待ってるなんて、無謀にも、ほどがある。
力なくして、棒立ちになったレオの横をすり抜けて、玄関の扉を開けた。振り向かずに、真っすぐに帰路へ着く。レオが帰ったかは心配にもなったけど、半端なことをしたくない。
何にも、やる気がなくなった。
幸い内定だけはもらえていてよかった。内定が決まったからと言って、学校には遅刻厳禁、さぼり厳禁、成績不良はもっと厳禁。
本当に、菜子のためだけに学校に来ていたようなものだった。それを知ったら、菜子に近づくのが、怖くなった。
本当に、俺のことを見ていない目。気持ちのない、ぶれない姿勢。はっきりとした、拒絶。——怖い。
それでも腹は減るのだから困る。学食に菜子があまり来ないのを知っている。
それでも、教室にいるよりか、何かの拍子で菜子の後ろ姿くらいは拝めるかも、なんて、ストーカーじみている。
「レオー。先行って席とってるわ」
飲み物を買いに、校内にある自動販売機まで歩くのすら億劫だ。肩を落として歩いても、世界は丸見えだ。見たくもないのに高い身長から、歩く生徒の姿が見えている。
昼休みになれば、自動販売機も前にも列ができる。いくつかあるうちの、少ない並びの列の自動販売機の前で足を止めた。
ぼーっとその前でにらめっこしていると、後ろから「早くしろよ」と声が聞こえてきた。
「うわ、最悪……」
その人物を目の前に、レオは顔を歪めた。声をかけてきた人物が、紫璃だったからだ。
「最悪ってなんなんだよ」
八つ当たりに等しい冷たい言葉を投げかけても、紫璃の眉間には皺はよっていない。それどころか、笑みを浮かべている。