偽りのヒーロー
適当にボタンを押して、何を買ったのかもわからない。早く紫璃の傍から離れたかった。そうして、手の中を見たら、渋いウーロン茶なんかを買ってしまったことに気づいて後悔した。
わずかに尖らせた口を見逃さず、紫璃は自分で買ったミルクティーを「ほら」とレオの目の前に差し出した。
「俺、茶ァ飲みたい気分だから」
「自分で買えば」
交換とばかりに差し出されたミルクティーから目を逸らすと、自動販売機のウーロン茶のボタンは赤く染まっていた。
「……俺、紫璃のそういうとこ、ほんときらい」
紳士みたいな、レディファーストみたいな。言葉にせずともこなれた振る舞いの優しさが大っ嫌いだ。
俺には、ないものだから。
意地悪く微笑んだ笑みも、その整った甘いマスクも、当然のように俺の好みを把握していることも。
ミルクティーなんて、本当は好きな飲み物なんかじゃなかったのに、菜子の机の上にいつも置いてあるから、いつの間にか、炭酸飲料の代わりにそれを選ぶようになってしまった。
そういうことも、全部わかった上で、やっているのが腹立たしい。
「えらく嫌われたもんだな」
紫璃は、くくっ、と肩を揺らして笑っている。菜子の手を離したくせに。最低な形で、彼女の傍を離れたくせに。
よくもそんなのうのうと、しかも俺が菜子が好きだと知って、話しかけられるものだ。
手の中のウーロン茶が、紫璃の手によってミルクティーに差し替えられていた。ぽんぽんと紫璃の手の上でウーロン茶が躍っている。
俺の、淀んだ気持ちなんて知らないみたいに。