偽りのヒーロー
action.34
推薦入試が一足先に始まると、慌ただしく先生たちが動いている。
補講の他に、面接の練習に、論文の練習。
推薦を受ける未蔓の髪はいつの間にか短く切りそろえられていたし、菖蒲の髪の毛も、黒く染められていた。
「うわ、なんか久しぶりに揃った感じするねー」
放課後の補講の、国語の時間だった。
菖蒲も紫璃も未蔓も原田も。こうやって慣れ親しんだ顔ぶれが揃うのは、久しぶりのことの気がした。
あいた席に自由に座る補講は、自然と仲良くなった人たちで形成されて、それが自分の好きな人たちで構成されていると思うと、補講の時間も悪くない。
「地歴公民とかほぼバラバラだもんねえ」
「直っぴはなんだっけ?」
「俺は地理B。未蔓は日本史Bだよね」
「ん」
「あー、そっか。理系一科目か」
「文系は大変だよね。2つ取らなきゃでしょ?」
「でも理科基礎だし。あ、でもね、政経はすごいよ! 10人しかいないから! 教室ガラッガラ!」
「はは、そりゃすごいね。菖蒲ちゃんは、倫理だっけ」
「うん。……結城もだけど。結城が倫理とか笑えるわ」
「おい蓮見、俺に喧嘩売ってんのか」
「違うし」
「嫌われてんなー、ずいぶん」
「まあ、ちょっとクズかなって思ってるだけよ」
「ま、まあ、落ち着こうよ、ね」
束の間の雑談に花を咲かせていると、ちょっとした小競り合いのようになって、原田が仲裁に入っていた。
けたけた笑っていると、紫璃の視線か外に向けられているのがわかった。それを辿ると、レオがいて、同じクラスの女の子と帰路についているようだった。
「菜子、レオのことこっぴどく振ったんだって?」
けろりと何でもないように話す紫璃に驚いて、菜子が狼狽えていると、周囲は微塵も驚いた様子はない。
しばしば菜子の様子を窺いにきていたレオがパタリと来なくなったこと。
去年組んだ、未蔓と菖蒲との仲のいい人を集めたクラスのグループのライン。度々連絡が入って来ていたそれに、すっかりと新しい通知が来ないことで、既に皆気づき始めているようだった。
「……どうせだったら最低だなって笑ってよ」
そうやって拗ねたように言うと、「結城が言えたもんじゃない」と菖蒲のするどい突っ込みに、再び仲裁に入る原田を見て、くすくすと笑ってしまっていた。
「そうだね。菜子は最低だ」