偽りのヒーロー
無念にも遅刻ギリギリになってしまった失態が、同じマンションに住む幼馴染の情報網で、早々に親にばれていた。
ちくったな、と行儀悪く箸を噛みそうになると、父がそれを止めなさいと指摘する。
「道がわからないなら、前もってそう言いなさい。ったく、方向音痴は母さんにそっくりだな」
「ばかだねー、おねっちゃん!」
家族3人で囲むその食卓には、2人の入学を祝う豪勢な料理が並んでいるのに、菜子を責め立てる言葉が投げられて、ついつい咀嚼が雑になる。とはいっても、非難ごうごうというわけではないが。
小学校一年生になった、少し歳の離れた弟の楓も、偶然にも同じ日に入学式も迎えていた。
父は初めての入学式を祝うべく、弟の小学校に向かったのだけれど、大人になったから大丈夫だろうという信頼は、情けなくもしっぺ返しをしてしまった。
知らぬところで親に告げ口をした未蔓に不服を抱いたが、気を利かせて教えてくれたんだぞ、という顔が、未蔓を怒ってやるなと言っている。
「自転車じゃないんだから、待ち合わせて一緒に行ってもらえばいいだろう」
そんな言葉を目聡く聞いた弟が、わざわざ下の階に住む未蔓に早々に伝えていて、その姿はまるで舎弟のようだ。2
階下の部屋に住む、未蔓、もとい一之瀬家とはよく行き来していて、弟の楓も一緒によく遊んだものだ。
そのおかげで、弟にとっては身近なお兄さん的存在で、未蔓と一緒にリビングでゲームに勤しんでいることがよくある。おまけにゲームやアニメの嗜好品が好きな未蔓は、小学生には難しいゲームを簡単にクリアしてしまう。
楓に羨望の眼差しを向けられ、未蔓もまんざらではなさそうだ。そんな未蔓とは、気づけば一緒に夕食を食べていることもしばしば。
高校に行ったら、それもいい加減卒業しようと思っていたはずなのに、どうにも思い通りにはならないらしい。
「朝、下に集合」
寝る間際に携帯を揺らしたその連絡は、一緒の通学を約束するものだった。
「わかってるよ……、そんな口酸っぱく言わなくても」