偽りのヒーロー
action.4
「おかえり」
未蔓と楽し気に話す楓が、菜子の姿を見て慌てて後ろ手に何かを隠していた。
こそこそと未蔓の後ろに身を隠し、屈んで合わせた菜子の目線をふよふよとわかりやすく逸らす。
「……隠さなくていいから、食べちゃいな。溶けるよ」
「ん!」
ぽふ、と軽く楓の頭に手を置くと、嬉しそうに手に持っていた棒アイスが姿を現す。あんなにご飯前はアイスやお菓子は食べるなと言っていたはずなのに、またそうやって内緒で食べて。
しかしながら7月の茹だるような暑さが、それもしかたないかな、と笑みを向けた。
「未蔓も勝手に買わないでよね」
弟を無作為の甘やかす幼馴染と肩を小突く。大袈裟に手で覆って、痛がる仕草をして見せた。
「やめてよ菜子。暴力反対」
「はんたーいっ!」
「どの口が言うか〜」
未蔓を味方につけて、些か態度の大きくなった弟の柔らかい頬を引っ張った。アイスでベタベタした楓の口元が菜子の指を汚す。への字になった菜子の口を見て、二人が楽しそうにけらけらと笑っていた。
「……おねっちゃん、僕もうおなかいっぱいだから、あげる」
食卓に並んだ、いくつもの食器。楓の前に置いたお皿の野菜炒めが、綺麗に残されていた。同じくよそったハンバーグは綺麗に食べているのだから、困りものだ。
「ほら、だから言ったでしょ。ピーマンだけ食べな。あと食べてあげるから」
えー、と可愛らしいブーイングが飛んできたけど、甘やかすことはできない。知らんふりをしたら、拗ねてしまったようだった。
食べ終わるまでに相当な時間を要して、しばらく箸のつけない弟に、途中、父から入った「もういいだろ」という助け舟という名の甘やかしを跳ね除けた。
「鬼!」と、べろを出す弟をぎろりと睨むと、慌ててピーマンに箸をつける。
父と一緒に入ったお風呂から上がる頃には、すっかり上機嫌になっていた。