偽りのヒーロー
わかりやすいけれど、きっと他人にはわかり辛い。
例えば、好きになってもらう「資格」がないとか、女の人がいう資格って意味がわからない。
菜子は、そういう言葉を言わない。そういう、曖昧な言葉を控えて、指摘されるのを恐れているから、回避するのが癖になっている。
はっきりと、レオの告白を突っぱねた時点で、確信できた。大事だから、そうやって。菜子は大事とか好きとか、そんなの気づいていないのかもしれないけれど。
「菜子を好きになっている時間が無駄」
「応えられない、その空白の曖昧な時間が無駄」
そうやって、拒否をするのは、大事だから、やっているのは目に見えている。
だいたい今まで一緒にいたくせに今さら何を言ってるんだろうか。
菜子のお母さんとは違うんだ。生きていられるのに。
きっと、レオにしてみたら、そういう時間も大事なはずだ。
拒否するのなんて、菜子にしてみたら優しさかもしれないけれど、レオにしてみたら、きっとそんなこと全然わからない。言わないと、わからないんだ。
結城とつき合ってるときだって。確かに朝の通学路は一緒に行かなくなった。
それでも鉢合わせしたら、一緒に歩いたし、直人だって、途中までは一緒に電車に乗る。それをすっかり受け入れて。
あのとき、菜子はどうしてた? 結城に連絡なんてしてなかっただろ。
「紫璃が心配するから」って、そんなライン、レオが一緒にいるときにしか送っていない。
最初っから、好きだったんだ。それが、友人としての好きだったのは、確かだ。それが変わってきているのが、怖い。
だからこそ、自分の感情に入り込まれる前に自制しようとする。ばかみたい。
嫌いになる前に話さないとか、レオにはできていない。
だってずっと、レオとは仲がいいくせに。話さずかからわず、事前に回避することなんて、もう、手遅れになっているくせに。
「別に私はレオのこと好きじゃない。……私が言ってるんだから、そうでしょ」
「……さっきの、レオと一緒にいた人、誰?」
「さあ? 同じクラスの子でしょ。名前まではわからないけど……」
「あっそ。俺はレオと同じクラスだなんて知らないけど」
意地悪い未蔓の言葉は、悪魔どころか、魔王みたいな威圧感。
少しだけ、怒っているのがわかる。久しぶりに、ここまで苛々しているんじゃないだろうか。
皆、口を開けたまま、驚いている。菜子と未蔓の二人の会話に、原田がてこを入れた。
「未蔓も菜っ子もやめときなよ。ちょっと熱くなりすぎだ」
優しく制しても、幼馴染の二人は同じ顔をしている。にらみあって、頑として自分の言い分を曲げない。