偽りのヒーロー
action.35
「菜子はセンター試験、受けんのかー…。なんだよ、センターって。ライトとかレフトとかじゃだめなんか」
めでたく推薦入試に受かった未蔓と菖蒲の二人を、巻き込むようにファミレスに居た。
菜子にふられた穴を埋めるように、菜子の身近な人から、菜子の近況を聞き出すのなんて、ほとほと未練たらしい。
素直に好きですと書いてある顔は、元気がないようだ。
「立花、菜子の邪魔はしないでよね」
はあ、とため息をつく唇が艶めかしい。
こんなに色気があって綺麗な菖蒲が目の前にいるのに、レオの胸は壊れたように静かだ。
「受験っていつまでなの? 2月? 3月?」
「場合による。菜子は前期がだめでも後期まで粘るって言ってたから、3月までかかるかもね」
大きなため息をつくレオに、菖蒲は被せるように、さらに大きなため息をついていた。カラン、と氷の溶けて崩れ落ちるさまをじっと見つめている。
「菜子は、たぶん国立落ちたら大学行かないよ」
「そうよね、そうなったら立花と話すひまとか全然ないわね。就活しなきゃ」
「え? なんで?」
「菜子が普通にしてるからね。忘れがちだけど、共働きみたいには余裕ないよね。楓なんかまだ小学生だし。たぶん奨学金もらっていくだろうし」
未蔓の説明には、息を飲んだ。
のらりくらりとして、こうやって話していれば、あまりにも菜子とレオの差を感じさせるような気がして、頭をふるふるとふるった。