偽りのヒーロー
冬になって通い始めた自動車学校。未蔓も菖蒲も一緒にいたから、すっかりと忘れていた。
国立、私立、奨学金。あまりクラスでは会話にあがらない言葉も、いち早く大学に合格した進学組の二人からは、すんなりと口から出る。
立場の違いがこんなにも明白になっているのだ、同級生、という枠から外れてしまえば、つなぎとめておくことすらできないかもしれないのが、怖い。
だからと言って、受験でピリピリした進学クラスにのうのうと足を運ぶこともままならない。
「暗くなったし、そろそろ帰ろうか」
ずずっとグラスの底を、ストローでほじくると、未蔓が伝票を持って立ち上がった。ただぐだぐだと話すだけのその時間も、菜子に近しい人だから意味があるのに。飄々とした未蔓の仕草は、妬けてしまうほど菜子にそっくりだ。
ファミレスで別れた帰り道、途中の道まで未蔓と菖蒲は隣を歩いていた。
菖蒲にとっては、どきどきと鼓動を高鳴らせるほどに気になっていた人が隣にいる今、驚くほど落ち着いている。
「立花って何もわかってないわよね」
菖蒲がポツリと漏らした言葉に、未蔓はぱちくりと瞬きをしていた。拗ねたようにわずかに膨らんだ頬から吐き出された息が白くなっていた。
「あんなにきっぱり言うなんて、菜子の優しさに決まってるのに」
「蓮見さんは、ほんとに菜子のことよく見てるね」
「一之瀬くんもね」
ふふふ、笑い合う空気が優しい。落ち着くようなその雰囲気も、全部菜子が繋いだもののように思う。