偽りのヒーロー
母は辛くても大丈夫、って笑っていた。
父も悲しいのに、大丈夫ってわらっていた。
楓は泣いていたけれど、泣く回数がずいぶん減った。
みんな何かを隠している。そうやって、感情って着飾るのも当然だと思っていたら、紫璃の気持ちは私に向いていなかった。
つき合ってるのに、他の人に気持ちが向くなんて、思ってもみなかった。あまりの衝撃で、夜に泣いて起きたのには驚いた。
そうやって、がんじがらめな理屈とか、言い訳とか。
レオは関係ないように言う。紫璃とつき合ってるのに好きって告白してくるし、その上めげずに好きだと言ってくる。
レオには嘘とかそういうのが存在していないみたいに。
紫璃は助けてって言えって言っていた。でも、だけど、言い訳がましい言葉ばかりが口を突いて、初めて自分がここまでひねくれた人物だと自覚した。
去年までは、レオとクラスが一緒だったから。おのずと傍にいれば、きっと感情に敏感になる。辛いとか、怖いとか、そんなときに駆けつけてくれたのは、レオだって、認めるのを躊躇した。
二人きりにはならない。言葉を極力交わさない。
好きじゃないと突っぱねたのは、精一杯の隔たりをつくるため。
そうやってレオの目から逃れようとすると、意外にも労力を使うことも分かった。
人を無視するのなんて、本当だったらやりたくない。
気疲れするし、避けようと思っていながら、レオの周囲に目を配ったり。とてもじゃないけど、ずっとはこのままでいられない。
あんなにはっきりと言ったのに、なんでこんなにも自分に好意を向けるのかと、菜子は疑問を抱かずにはいられない。