偽りのヒーロー



 無理だって、突っぱねたのは、あのときできる、自分の一番の正解の行動だったはずなのに。


紫璃を思っている菜子を思うだけ無駄、それは、時間のことも相まって。それなら早くに可能性がないことを示せば、他に気持ちが向くのが自然だとも思ったのに。

別に恋愛じゃなくともいい。友人と遊んだり、趣味を持ったり、なんでもいい。





 好いてくれてる人ってなんなのだろう。立花レオンの好きな葉山菜子って、自分ではないんじゃないだろうか。

そうやって考えていれば、レオのことを考えている自分にうんざりして、菜子は大きく頭を振っていた。





 都合がいい、気の多い女。

まさに自分のことだ、と菜子は眉間に皺を寄せていた。



いざ紫璃との記憶と感情が思い出になったかと思えば、ピタリとやんだレオの言葉とか連絡とか、そんなのを気にして。

厭らしいにもほどがある。

それならこのまま無視を決め込んで、その繋がりを切ってしまうのも手かもしれない。



ずいぶん傷つけたその優しい人を、確信の持てない感情で、縛りつけるのは理想じゃない。まだ恋かどうかに、確信が持てない。


< 406 / 425 >

この作品をシェア

pagetop