偽りのヒーロー
そうやって、のめり込むようにした受験勉強は、なんとか功を奏したようだった。
「やった! 菜っ子、受かってる!」
「え、待って。私の番号は……」
「受かってるよ! 367と371! 受かってる!」
偶然にも原田と同じ大学を受けると知ったのは、大学への出願する書類の説明を受けていたときだった。学部は違えど、同じ大学。
切磋琢磨するその様子を、菖蒲は焦る様子もなく、温かい目で見ていた。
何かが起きるわけもない二人だけれど、疑いもしないその目は、二人の強くなった絆を示しているようだった。
「うう……勉強したかいあった……」
「そうだね。レオを無視した甲斐あったじゃん」
「なんで今そんなこと言うの。せっかくテンション上がってたのに」
ははは、と笑い合えば、卒業式を不穏な空気を纏わずに参列できる喜びを噛みしめていた。
「菜子ちゃん。卒業おめでとう!」
「まだ卒業はしてないですよ」
受験になって、シフトを減らしたバイトは、10月頃からお休みさせてもらっていた。
大学の合格が決まった後は、春休みの高校生と大学生の狭間の歳になる。曖昧な期間は、再びこのバイト先でお世話になるつもりだったのだけれど。
「なんとですね、大発表があるのよね」
「え? なんですか?」
「なんと……2号店を出すことに決まりました〜!」
「ほんとですか!? わ、おめでとうございます!」
慣れ親しんだ、花屋のバイト。
2号店が出店することで、そちらでバイトをすることになった。
大学により近いバイト先に鞍替えして、逃げるが勝ちではないけれど、いよいよ新しい人間関係を作る準備はできていた。