偽りのヒーロー




寒さの厳しかった冬も終わり、桜の花が咲き始める季節となりました。空を飛び交う小鳥のさえずり。やわらかな風の流れ。学校を見守る沢山の木々——……



 同級生の生徒会長の任をこなしていた生徒の答辞。ずず、っと鼻をすする生徒もいるのに、どうもこうして眠気を誘う。


ようやく迎えた卒業式も、3年前と何変わっていない。




新たにできた親友。さらに絆の増した幼馴染。

家族の失った悲しみから立ち上がれた日々。

その手を放すのが、苦しくなるほどに好きだった初恋の人。そして、新たにできてしまった好きな人みたいに気になる友人。



「どうしようもないな、私は……」



 呟いたそれは、強がった菜子の一言。

本当に、全然変わってない。そうやって、この気持ちが薄れゆくまで、自分の中にしまっていくのだ。



「菜子! 菜子は!?」

「……もう帰ったわよ。一之瀬くんちと一緒にレストランでお祝いだって」



 まだ冷たい風が吹きすさぶ晴れ渡った空。こんなにも卒業を祝う綺麗な空は、今のレオの気持ちをあざ笑ってるみたいだった。



「……中途半端にされなくてよかったじゃない。立花、就職してもがんばれ」



 優しい菖蒲の言葉は初めての。慈愛に満ちた、終わりを告げるその言葉。



「……がんばるよ、俺は」


< 408 / 425 >

この作品をシェア

pagetop