偽りのヒーロー
「立花ー助かったわ。ありがとなー。出張って荷物多くてやんなっちゃうよなあ」
「飛行機使えただけいいじゃないですか」
ガラガラとキャリーケースを転がす男性を迎えに来たのは、レオだった。
就職して、3年目を迎える職場の先輩だ。
外回りで運転したその流れで、空港まで先輩を迎えに来たのだ。大きな空港は、人が多くて、多国籍な空間で異質なものに感じていた。
「先輩、出口こっちでしたっけ」
「え? お前わかってて歩いてきてたんじゃなかったのかよ」
「すみません。来るときは人の波に流されてきてたら、なんか到着口んとこ来れたんで……」
「勢いで来たのかよ」
てっきりレオが空港内を把握しているものだとばかり思っていた。ずんずん歩くレオの背中をついてきた職場の先輩が、きょろきょろと周囲を見渡し、駐車場への出入り口を探していた。
「こっちこっち」、と周囲を把握し歩き出した先輩のあとをついて行けば、外国人が多いためが、距離の近いスキンシップをしている人が多く目に入ってきた。
「すげえよな、人前でハグとかキスとか。日本人にはハードル高いわ」
「そっすよね」
ちらちらと辺りを見回していると、外国人が多くいるフロアに、日本人の姿もあるようだ。
男の人にハグと頬にキスをされ、ぐぐっと、押し返している女性の姿が見える。腰元まである大きなキャリーケースは、おおよそ海外旅行といったところか。
なんだか、外国人の隣にいる女性が、ずっと目で追っていた人の後ろ姿に似ている。
隣の男がぴったりと寄り添って、楽し気笑う姿。白い肌と、レオが見てきた高校生のときより、髪が伸びている気がするけれど。
「……菜子?」
そのときツアーの観光客らしき集団が、レオの視界を遮って、再びそこの目を向けても、既に誰もいなかった。
「立花ー、行くぞー」
「あっ、はい! すみません!」
先輩の声で我に返ったレオは、ぱたぱたと小走りで空港を後にしたのだった。