偽りのヒーロー




「立花ー助かったわ。ありがとなー。出張って荷物多くてやんなっちゃうよなあ」

「飛行機使えただけいいじゃないですか」



 ガラガラとキャリーケースを転がす男性を迎えに来たのは、レオだった。

就職して、3年目を迎える職場の先輩だ。

外回りで運転したその流れで、空港まで先輩を迎えに来たのだ。大きな空港は、人が多くて、多国籍な空間で異質なものに感じていた。



「先輩、出口こっちでしたっけ」

「え? お前わかってて歩いてきてたんじゃなかったのかよ」

「すみません。来るときは人の波に流されてきてたら、なんか到着口んとこ来れたんで……」

「勢いで来たのかよ」



 てっきりレオが空港内を把握しているものだとばかり思っていた。ずんずん歩くレオの背中をついてきた職場の先輩が、きょろきょろと周囲を見渡し、駐車場への出入り口を探していた。


 「こっちこっち」、と周囲を把握し歩き出した先輩のあとをついて行けば、外国人が多いためが、距離の近いスキンシップをしている人が多く目に入ってきた。



「すげえよな、人前でハグとかキスとか。日本人にはハードル高いわ」

「そっすよね」



 ちらちらと辺りを見回していると、外国人が多くいるフロアに、日本人の姿もあるようだ。

男の人にハグと頬にキスをされ、ぐぐっと、押し返している女性の姿が見える。腰元まである大きなキャリーケースは、おおよそ海外旅行といったところか。



 なんだか、外国人の隣にいる女性が、ずっと目で追っていた人の後ろ姿に似ている。

隣の男がぴったりと寄り添って、楽し気笑う姿。白い肌と、レオが見てきた高校生のときより、髪が伸びている気がするけれど。





「……菜子?」



 そのときツアーの観光客らしき集団が、レオの視界を遮って、再びそこの目を向けても、既に誰もいなかった。


「立花ー、行くぞー」

「あっ、はい! すみません!」


 先輩の声で我に返ったレオは、ぱたぱたと小走りで空港を後にしたのだった。


< 411 / 425 >

この作品をシェア

pagetop