偽りのヒーロー
連絡することがなくなった菜子とレオ。番号は、変わってないようだ。
コールの音が鳴り響くから、着信拒否には、されていないらしい。
連絡自体はできるけど、既読が着かないから、無視、というか、もうその関係を遮断されているのだと思う。
同じ高校だし、共通の友人だって多い。聞こうと思えば近況くらい聞けるかと高をくくっていれば、ガードが固くて誰も菜子の話には乗ってこない。
就職して3年目。めっきり元クラスメイトと会う機会が減ってしまった。
20歳を超えてお酒を飲めるようになってからは、少しだけ会うこともあるけれど、どうにも社会人と学生という立場から、生活リズムが異なってしまっていた。
先輩が夏季休業こそあれど、3日間しかないその休暇に文句を言うために居酒屋に連れ出されたレオは、あまりお酒に強くない。
べろんべろんに酔っぱらって千鳥足という経験こそないが、記憶が微かにしか残っていないことはよくある。
今日もまずはビールで乾杯。たばこの煙を美味しそうにはく先輩の紫煙が、顔にかかる。
「それで菜っ子がさ〜…」
ああ、もう、幻聴が聞こえてしまうほどに恋い焦がれてしまっているのか。先輩が用を足すのを、じっとひとりで待っていると、なんだか頭の中で菜子が笑っているみたいだ。
ふとのれんで区切られた半個室の隙間からその声の元を辿れば、そこには3年間を共に過ごした友人の姿。
「ミッツ! それに菖蒲ちゃんに直っぴ……なんで紫璃まで」
きょとんとしたいくつもの顔が、レオに向けられていた。
なんとも異様な組み合わせとも言えるその集まりも、馴染みのようなみんなの仕草。
慌てて回りを見渡すレオに、紫璃が口を開いていた。
「菜子ならいねーよ」
おもむろに酒の入ったグラスに口をつけると、のどぼとけをごくごくと上下させている。