偽りのヒーロー
高校生の面影なんて、わずかで、ずっと大人びた顔に、慣れた仕草。
あか抜けた印象になった未蔓。
いつのまにか恋人同士になっていた菖蒲と原田。
それにお酒の席を一緒にするほど、仲が良いなんて知らなかった紫璃。
それなのに、そこに菜子はいない。レオのことなんて気にもせず、淡々とご飯を食べている友人達は、特別変わった様子はない。
「ナコならイングランドだヨ」
誰だこいつは。きらきらの髪の毛にグレーの目の色で背も高い。どこのモデルだ、と言わんばかりの容姿に、「あー!」とレオは指を指して大声をあげた。
「レオうるさい。あと指ささないで」
「ゴメン、ミツル!」
「違う、リオじゃない、レオ」
レオの頭の中はパニックだ。見慣れた友人ばかりかと思えば、空港で見た外国人までいるし。なんだか当たり前のようにミッツの隣に座っているし、なんなんだ。
「あー、レオ。この人、俺と同じ大学なんだ。文学部だけど」
「ハイ! ボクのナマエはリオデス」
聞けば、リオは菜子と原田と同じ大学だという。皆学部こそ違えど、縁あってこうして仲良く酒を飲みながら談笑するくらいには。
自分と似ている名前の外国人。いつの間にか、菜子の隣をそんな知らない人がいたのかと思うと、鼓動が早くなる。
誰かの携帯が震えたかと思えば、リオの携帯で。画面をタップするすると、みな一斉に耳を傾けていた。
『……オ。リオ?』
恋い焦がれていた、愛しい人の。受話器を通してもはっきりとわかる菜子の声。
画面を見れば、途切れ途切れに静止した、ざらついた画面の中には、菜子の顔。
「菜子……!」
『あれ? リオ……じゃない? レオ? え、何? リオー、おーい』
画面をのぞき込むようにレオが近づけば、その身体を紫璃が押して遠ざける。
どうやらスカイプ通話らしい。友人が一様に介するこの場で、近況を報告する場を兼ねているらしかった。