偽りのヒーロー
「ナコ! ソッチはどう?」
『リオのおかげで、とりあえず無事に着いたよ。あとみんなリオよりハグしてくる』
ハグなんて聞き慣れない行為を、さらりと述べる菜子の知らない姿。
後ろに身切れた男の姿が気になって、目を凝らしても、誰もその人には注目していないようだった。
「ハハハ! 言ったじゃナイ、ボクのスキンシップより……ah、modest」
『控えめ、ひかえめ、ね』
「ソウ!」
『ていうかなんでレオいんの? リオいつ友達になったの?』
「イマ!」
『なんじゃそりゃ』
困ったような呆れ顔。久しぶりに見る、菜子の顔。画面なんかじゃなくて、この腕の中で体温を感じたいのに。
『Naco! Come here!』
『Just a moment. I’m coming soon!』
ぽろぽろと伝う涙は、画面でもかくせないほどに溢れていた。ぎょっとする友人たちの反応なんて、気に留めることもできないくらいに。菜子を見たら、何も考えられなくなっていた。
当たり前のように英語を話す菜子。知らない外国人の男性。親し気に、微笑み返す、甘い顔。
「そいつ、だ、誰……」
そこの区画だけが、ざわざわと騒がしい場所から切り離されたみたいに静まり返っていた。溢れた涙で菜子の姿が歪んでいる。
『? 家主だよ、ここの』
ずず、っと鼻をすすって、言葉にならない声だけが、響いていた。
結婚とか、してるのか、とか。国際結婚っていうやつか、とか。
絶望。目の前が歪みに歪んで、嗚咽しか出て来ない。
『レオ? なんで泣いてるの?』
その言葉には、何も出て来なかった。頭が真っ白になって、言葉の欠片も存在していなかったから。
何も話さないレオの代わりに、リオが楽し気に話している。いつこっちに帰ってくるのか、なんて、そんなこと。
一時帰国ってやつだろうか。里帰りとか、そういうの。そうやって、何も考えられくなった頭に、「半年後」という言葉だけが木霊していた。
呆然としてる間にいつの間にか途切れた言葉、加えて黒くなった画面。
それでも半年という言葉はしっかりと耳に届いている。
半年後。忘れない。一目でいいから、会いに行く。