偽りのヒーロー

action.37




 半年後。本当に長い。

ミッツも菖蒲ちゃんも紫璃も直っぴも、口が堅くて、頑として菜子のことは話してくれなかった。


それでも頑張る根競べ。菜子を人生の半分以上の時をかけて感情を傾けたことに比べたら、大したことじゃない。

それでも本当にもう終わりかと思うと、頭も胸も痛くて苦しい。

「同棲」とか「結婚」とか、そういうのに敏感になってしまうのは、やはり日本人なんだな、と痛感している近頃だ。




 相当気を落としていたのは事実だ。それを見かねて原田がレオに、菜子の帰国の日時だけ教えてくれた。リオが何か楽し気に口を開いていたけれど、それを制するように口を塞いでいた。

恐らく菜子のことを聞いても、皆口を揃えたように言葉を濁したのは、俺のショックを見通してのことだったのかなんて思うと合点が行く。




 繋がっても出ない携帯。

高校のときに続けると言っていた花屋にもいなかったのだって、外国にいるからだろう。

そう思うと、落ち込むどころかすべてに納得がいくのも、ほとほと肩を落とす次第だ。それでも別にいい。嫌だって、胸を押し返されてもいい。それでも直接会えれば、いいんだから。




 
 車が運転できるようになった。ちょっと大人になった気分。

自分では車を維持する余裕はなくて、兄貴のを借りてきたのだけれど。調子に乗って汚すなよ、と笑って言われたその意味は、大人になってしまったから、少しわかる。菜子に言ったら下ネタか、って笑ってくれるだろうか。







「菜子!」



 予想通り、目を丸くした菜子が、大きなキャリーケースを転がすのを止めた。

後ろからくる人に気づくと、慌ててまた歩き始めて、アメリカナイズされていない仕草に笑みが漏れた。

あれ、そういえば、イングランドってどこなんだろう。



「……レオ? なんで?」



 はてなマークをいっぱいに浮かべた菜子の顔すら可愛い。なんなんだよ、その慌てた顔。

歳を重ねたせいか、少し痩せたのか、なんだか一層焦がれている。

名前を呼ばれるのも最後か。そう思えば、笑顔を作るのが難しくて、張りついた愛想笑いになってしまう。



「あ、あれ……菜子、一人?」



 てっきりあの外国の男と来るものだとばかり思っていたから、拍子抜けをしてしまった。



全く知らない男と手を繋いでくるかと構えていたからか、思いがけず安堵して、涙が一筋伝ってしまった。




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