偽りのヒーロー
手を伸ばせば触れられる距離がもどかしい。いっそのこと、レオに告白してしまおうか。
それでもまだ家まで少し距離のある密室の車内。ふられたら、気まずいか、なんて一線を引いている。
「レオ、せっかく休みだったろうに、ごめんね。一日無駄にさせちゃった」
レオが耳に神経を集中させれば、菜子は「ごめんね」と呟いていた。聞きあきたけど、もう既に慣れている。予想通りだ。話せるだけでそれでいい。
「……無駄なんて言わないでよ。そしたらこの先ずっと無駄になる」
「……?」
「今も菜子が好きなんだ。昔も今もこれからも。だから無理。一生話せなくなるの、辛い」
吐き出すように吐露したレオの言葉は本心だ。
しつこいって、思われるだろうか。それともストーカー? いっそのことズタボロに心を引き裂いてくれたほうが、楽になるのかもしれない。
続けると言っていたバイト先の花屋にも、もういない。
いつしか連絡の取れなくなった携帯も、菜子がいないと意味がない。
そう思って、レオは意を決して言ったつもりだった。
「……? 私が好きなのは、レオなんだけど」
「……ん?」
「え? 何? どういうこと? レオ、今も私のこと好きなの?」
「いや、だから俺はずっと菜子のこと……え?」
レオは大きな声で、悲鳴をあげている。無視した、ライン。出ない電話。いなくなった、バイト先。
関係を遮断するような行動ともとれるそれって、一体。
「……俺のラインとか全部無視してたじゃん」
「え? 何言ってるの? 私の携帯水没したから、変えたんだよ」
「は!?」
「バックアップとるの忘れてて、連絡先結構消えちゃって……。ラインはほら、携帯変えたらアプリ新しく入れ直したから……」
「……え?」
「……………え?」
バカみたいな、すれ違い。小さいようで、とてつもなく大きな。
現代人らしい、無機質な機械と、データなんかに振り回されて、互いの言葉を聞くことなんてしなかった。