偽りのヒーロー
「菜っ子のこと迎えに行くのかな」
ぼろぼろと泣き出したレオを、トイレから戻ってきた職場の先輩らしきその人が見て、慌てて宥めていた。
ぺこぺこと後輩のために頭を下げて、もといた席に連れていくと、「俺今日は飲みたい気分です」なんて社会人らしい泣き言が聞こえていた。
口直しよろしく、場所を変えて仕切り直しだと笑った先輩を見て、なかなか恵まれた会社に入社したことが感じられた。
「行くだろ。どうせ、仕事のついでだ、とか言うんだぜ」
原田の言葉はレオを心配するようなトーンだったが、紫璃はおかしそうに肩を揺らして笑っている。
酒の入ったグラスに口をつける口角も、どこか上がっているように見えた。
同じ席に座るリオは、きょろきょろと4人の顔を見回している。
旧友の話についていけないことをフォローするように未蔓が褒めると、ぴったりのその身体にくっついていた。
「リオ。今日だけは褒める。すごいいいタイミングで来た」
「ミツル……! それは、OKってイウコトダネ?」
「だから違うって。男だからとかじゃなくて、リオは駄目」
「そういうノ、ジャパニーズツンデレってイウんでショ」
はあ、とため息をつく未蔓は、リオのペースの巻き込まれて、うんざりしているようだ。肩を落として、酒を飲むぺースも早い。
菜子と原田の大学で、新たにできた友人のこの男。どうもイギリス出身らしい。
夏休みに帰国がてら、菜子と一緒にイギリスまで同じ飛行機に乗っていた。
バイトでモデルをやっていたなんていう、バイトでできないようなことをサラリと言ってのけるこのリオは、たぶん、ゲイ。
菜子と原田の情報だから、定かではないだろうけれど。
本人曰く、今まで好きになった人が二人いて、そのどちらとも二人だっただけで、ゲイかどうかはわからないと言っていた。
拙い日本語で、女性にも勃つ、みたいなことをけろっと言ってのけるくらいには度胸がある。
バイとか、ゲイとか、どうでもいい。
明るくて真っ直ぐな子犬みたいな性格が眩しいリオは、加えて、オタク。
おもに歴史、特に新選組の。