偽りのヒーロー
「菜子って成人君主にでもなるのかと思ってた」
くすくすと笑う菖蒲は、グラスを傾けて、溶けだした氷を揺らしている、カラコロとぶつかる氷の音が、心地いい。
「セイジンクンシ?」
「ざっくり言うと立派な人みたいなこと」
「ナコガ! オモシロイジョークだネ」
「違うのリオくん。なんていうのかしら、立派な空想みたいな人だと思ったら、ちゃんと人間だったっていうことで……」
「ウーン。ヒジカタトシゾウみたいナ?」
「どっちかっつーと沖田総司のが……」
「全然違う。そんな立派なじゃない」
「未蔓はちょっと菜っ子にあたり厳しすぎ」
笑い声で、溢れている。
菜子がいなくても、レオがいなくても。
そりゃあいた方が楽しいとは思うけれど、いなくたってやっていける。
それなのに、互いにいないとダメみたいに想いあっているのが、現実のものではないようだ。
違いがあるとすれば、率直な言い方とまどろっこしい言い方と。それくらいで秘めている想いが同じだった。
「運命」とか、「ヒーロー」とか「正義」とか。
そんな言葉を体現しているのようで、夢見心地な現実だ。未蔓の理想を、まさに描いたみたいに思えて笑みが浮かんだ。
皮肉にも、店内にかかるBGMのタイトルが滑稽だ。
「偽りのヒーロー」、今週の、オリコン一位を獲得した曲だった。