偽りのヒーロー



 明るく染めた髪の毛、袖から出た程よく筋肉のついた手、垂れた目元。一見チャラチャラしていそうな、そんな男性の友人は菜子にはいないはず、なのだけれど。



「未蔓のクラスの人?」



 こくりと頷く未蔓が、「原田直人」と言葉身近にその人の名前を口にする。

原田直人、という名前には僅かに聞き覚えがあるのだが、しかし何度顔を見たところで思い出せそうにない。



「人違い?」



 首を傾げ合う未蔓と菜子のまわりは、ふわふわした空気が漂っていた。

お互いに疑問符を頭の上に浮かべたまま、持ってきたジュースをグラスに注ぐ。とりあえず、と未蔓から渡されたグラスを口につけると、原田も恐る恐るグラスを手に取った。



 菜子は原田にチラチラと視線を向け、観察するかの如く凝視する。

グラスを持つ指に見覚えがあるように思えたのだが、どうだろう。グラスを持つとき少しだけ存在感の増す小指。それに気づくと恥ずかしそうに、そろりと小指を他の指と同じように揃える。



「……直っぴ?」


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