偽りのヒーロー
ギクリと原田の身体が上下したのを、菜子は見逃さなかった。
顔を確かめるように覗き込むと、わざとらしく顔を背ける。次第に菜子の真似をして未蔓も顔を覗き込むと、降参だとばかりに両手をあげた。
「うわー、やっぱ直っぴ!? 全然わからなかった! どうしたの、その髪! 背も伸びたねえ! てかメガネどうしたの? 声も低くなって!」
矢継ぎ早の菜子の言葉に耳を塞ぐ原田。きょとんとした顔を向ける未蔓に、説明するように口を開く。
原田直人(はらだ なおと)、通称、直っぴ。
中学時代に所属していたバスケットボール部で、練習試合をしていた対戦相手の学校の生徒だ。
度々互いの学校に行って、友人ができた中学時代。女子と男子が試合をすることなどなかったが、原田のことはよく覚えている。
練習試合で対戦校に赴いた菜子。
練習に励む男子バスケ部に、小さな男の子がいた。他の男子と比べて低い身長、薄い身体。おまけにビン底の目が大きく見えるメガネが可愛くて、対極に目が小さく見えるメガネを必要とする菜子は、原田に親近感を抱いたものだ。
何度も顔を合わせるうちに、笑って話しかけてくれるようになって、ずいぶんと会話が弾んだものだ。
ちなみに直っぴという可愛らしいあだ名は、カバンにつけられた、カエルのキーホルダーからきているのは余談である。