偽りのヒーロー
あの頃はチャラいという印象など皆無で、どちらかと言えばガリ勉を彷彿させる男の子だったはずなのに。
すっかりと男の子から男の人に変貌を遂げた友人に浮かれて、顔から頭から、ぺたぺたと触ってしまう。やめろと鬱陶しがる原田が、苦笑して口を開いた。
「こうなるから言いたくなかったんだ。せっかく誰もいない高校来たはずなのに」
「なんでよ、別にいいじゃん」
「高校デビューなんて、知られたら恥ずかしいでしょ」
「大丈夫だよ、直っぴかっこよくなってるから! 前も可愛いかったけど」
「そういう菜っ子は全然変わってないね」
疑いというべきか、誤解が解けると、すぐに昔のように話が弾む。未蔓も輪の中に加わると、冷えたスイカを食べながら、話に花を咲かせる。
ゲームに誘われたはずが、プレイも疎かに学校での出来事を中心に会話は途切れることがない。
「で、せっかくイメチェンしたわけだから。俺は新な一歩を踏み出したのね。告白とかしちゃったり」
「……振られたって言ってなかったっけ」
クラスの中でもきっと仲がいいのだろう、未蔓と原田の二人の会話のテンポの良さが窺える。
久しぶりの友人の変貌の遂げた話は大変に興味を惹きつけるもので、菜子は「へー!」「それで?」と目を輝かせながら相槌を打っていた。
告白なんてできない、なんて床にぐるぐる円を描いていた指は、今では楽し気に拳が握られている。
消極的というべきか、大人しかった原田が意気揚々と話しているのには安堵した。人見知りだったのか、口を閉ざすことが多かったけれど、慣れてしまえば饒舌になる話し方。
外見はパッと見では気づかないくらい変化しているが、柔らかい話し方は変わっていない。
束の間の安心感に溺れていると、菜子はふと疑問を浮かべる。
以前菖蒲が打ち明けてくれた、告白されたという相手のことだ。詳しく問うことはなかったが、断ったという男の人。軽そうだとあまりいい印象を持っていなさそうな男の人。