偽りのヒーロー
「……7組の原田くん?」
菜子は行儀悪く、原田に指をさして目をぱちくりとさせる。スイカの種を器用にさらに噴き出す未蔓に、スイカの種をスプーンでほじくりながら、菜子に笑いかける。
「原田くんて。菜っ子はそんな呼び方しないくせに。どうした?」
菜子のふいの質問には、疑念すら浮かべていない様子だった。綺麗に種の取り除かれた真っ赤なスイカをスプーンですくう原田に、口を開く。興奮して、椅子から立ち上がって。
「菖蒲に告ったのって、直っぴ!?」
ぎょっとした原田は、ごほごほとむせて胸元を叩いていた。慌てて未蔓から水の入ったグラスを受け取って、おかしなところに入った食べ物を流し込む。
苦しかったのか、聞かれたくなかったことなのか。原田は目に涙を溜めて、薄い膜がキラキラと輝いていた。
「大丈夫?」
未蔓の淡々とした言葉に、胸を擦る原田。落ち着きを取り払った菜子は、二人とは相反してしきりに騒ぎ立てている。
テーブルに突っ伏してみたり、頭を抱えてみたり、立ち上がっては座ってみたり。
一言も発していないのにも関わらずぱたぱた忙しなく動く菜子に、未蔓は「うるさい」と一喝した。
困ったことになった。
菖蒲に好意を抱く異性が二人。しかもそれが仲のいい友人。加えて菖蒲は気になる人がいると言っていて、玉砕はほぼ確定……。
そんな中、してあげられることなどないように思えて悶える。打つ手がない、お手上げだとばかりに頭を悩ませていた。
「菜子、携帯鳴ってる」
「今それどころじゃないの!」
親切心で教えられた携帯を放り出す。
画面に表示された名前も確認しないまま、話の腰を折らないようにマナーモードにして音を切った。