偽りのヒーロー
吹っ切れたのか、それから原田がいかにして菖蒲が好きかなどと饒舌に語っていた。
綺麗な顔立ち、凛とした姿が、自身を持てずにいた自分と違って格好良く見えていたとか。一目ぼれと言っていい恋の始まりが、彼女を目で追ううちに時折見せる可愛らしい表情が、大人びているときとのギャップを感じてもっと知りたくなっただとか。
ただの惚気だな、と菜子と未蔓は度々顔を合わせる。止まらない語り口は、博識の知識を説明しているかの如くつらつらと述べられて、こちらまで意気込んでしまいそうになっていた。
原田もレオも、菖蒲に好意を抱いていると知った今、どちらかに加担するというのが菜子には負担で頭を抱える。
必死に模索している今この状況を打破し得る解決策が見出せそうにない。「菖蒲に好きな人がいる」だなんて、到底口にできるわけもなく、気づけば眉間に皺を寄せる菜子に、原田は笑う。
「や、いいのよ。菜っ子が悩まなくても。俺が勝手に好きなだけだから」
「ふられてるけどね」
未蔓の会心の一撃に、原田は肩を落とした。そうだけど、と口を尖らせ、いじいじと指をまわす仕草に昔の姿が重なり笑みが漏れる。
「直っぴさあ、今の感じでいったほうが感触いいと思うよ」
菜子の一言に、原田は勢い良く返す。高校で思い切って印象を変えた意味がないと、不服を漏らすが、菜子は首を傾げるばかりだ。
告白なんて、夢のまた夢。
以前の原田であれば、気持ちを伝えることさえままらなかった性格を鑑みれば、とてつもない進化といえよう。
しかしながらブラッシュアップの方向が間違っている、と菜子の総攻撃にあっていた。