偽りのヒーロー
「だって告白の仕方なんて教科書に載ってないんだ。参考にできるの、ネットとか漫画とか、そういうのしかないんだよ」
「直人……」
「直っぴ……」
哀れみの言葉が口をつく。菜子と未蔓が可哀そうだと痒い視線を投げかけているのに気づいた原田は、がしがしと頭を掻きむしる。
さすがは優秀なガリ勉くんだと言われていただけのことはある。恐らく何かを参考に、積極性を身に着けたまでは良かったものの、どこか抜けているのは原田らしい。
「とりあえず硬派な男の出る漫画読めばいい」
「それ、ちょっと違うと思う……」
未蔓のアドバイスに、的外れだと菜子は突っ込みを入れた。頭を抱える原田と、腕を組み、首を傾げる菜子と未蔓。3人の仕草が異様に思えて、顔を見合わせると、ぷっと噴き出した。
「ふ、でもよかった。高校デビューとか笑いものになると思ってたから、恥ずかしくて」
「言ったでしょ。菜子はバカだからそういうの気にしない」
「褒めるか蔑むかどっちかにして!」
げらげらと笑い合っていると、早いもので夕方になっていた。
まだ明るい外の空気をめいっぱい吸い込んで、「じゃあね」と家路につく原田を、二人はエントランスの外まで送って行く。
大きくなった身体が、日差しを受けて凛々しく見えて、感慨深げにその背中を追う。
各自の家に帰る間際、未蔓の細い腕を見て、骨ばって筋肉のついた原田の腕とつい比べてしまっていた。じろじろと見る菜子に視線に、未蔓はエレベーターを降りるときにこう言った。
「直人ももやしだから。あれファッション筋肉。箸より重いもの持てないって言ってた」
「……どうでもいいわ」
雑学中の雑学を聞いて可笑しくなった。何のためにもならないけれど、笑い転げるには十分の。