偽りのヒーロー

action.5

『駅前集合。先に店ん中入ってる』



　そう連絡をもらったのは、一時間ほど前のことだった。

最後の補習を終えたレオは、夏休みだというのに、しっかりと制服に身をつつんでいた。

少人数で受けた数日の補習は、いつしか仲のいい友人になり、帰りにどこか寄っていくかと話しをしていたときのこと。結城のそっけない連絡が携帯の画面から威圧感を醸し出し、そそくさと「用事できたから、ごめんな」と言わざるを得なかった。



「なんだよー。俺遊びに行こうと思ってたのに〜」



　ぶうぶうと文句を垂れるレオに、結城は苛々したように声を荒げる。



「それどころじゃねえんだよ。アイツ全っ然連絡よこさねえんだけど」



　携帯をトントンとテーブルに軽く叩きつける結城に、レオはきょとんとした顔を向ける。

「誰のことだよ」と、指先でポテトを摘まんで遊んでいると、摘まんだちょっとのポテトを残して、ぶちっと千切り、結城の手に奪われる。



「……葉山、アイツなんなの。連絡しても全然返さねえけど、何してんだよ」

「菜子？　あーあいつ返信おっせえよなあ！　電話したほう早いかも」

「お前、電話なんかしてんのかよ」



　白い歯で噛み千切ったポテトを見て、思わずレオの大きな体がヒュッと縮こまる。当然のように知った口を聞くレオに、結城は苛立ちを増幅させていた。



　菜子はメール無精らしく、あまり俊敏な返信は期待できない。

それに気づいたところで、特別変わった様子もなく、返信が来るまで気にせずレオは連絡を送り続けているのだが、その鈍行さが結城はお気に召さないらしい。



　レオ曰く、３回に一回くらい返事がくる。

明日の予定、テストの範囲、そういったものであればわりに早い返信が来ることも知っている。
着信に気づけば早々に返信をくれるのだが、しかし、短文のやりとりがレスポンス良く続かないことは、昨今の高校生にとっては死活問題なのだろう。

最も、菜子に限ってはその意見がまかり通らず苦戦しているというところだろうか。