偽りのヒーロー



 入学から早一か月。
一か月もすれば、手探りだった友人関係も決まってくる。

「何組のなんとかくんがカッコイイ」だの、
早々に「彼氏ができた」だの、甘酸っぱい話も聞こえてきたりして。



「あれ〜? 菖蒲ちゃん、菜子は一緒じゃないの?」

「……日直。職員室にノート持ってった」

「あー、なるほどね!」



 騒々しい、いや、この元気な男子生徒は、仲良くなったクラスメイトの立花レオン。

深いブルーの目は、日本人離れしていて、何度見ても綺麗な瞳だ。

髪の毛は黒いけれど、鼻筋の通った顔と手足の長い高身長の容姿は、クオーターだというのも頷ける。

生憎、整ったその容姿は、少し残念だとクラスの中では、今では暗黙の了解になっている。



 クラスの皆で集まろう。そんな約束がゴールデンウィーク前にあった。

土日は花屋でバイトをさせてもらっていて、なおかつそんなに遅くまでは遊べない。けれど、塾に通う人や習い事をしている人など様々で、夜の8時には解散したと聞いた。

私は、お昼過ぎから夕方までの短い時間、参加させてもらったのだけど、その時間は大人数でカラオケに行って、マイクを持って熱唱していたレオのマイクが、大音量でエコーした。



「ああっ! やばい! ナイトレンジャーの再放送見ないと!」



 ナイトレンジャーというのは、日曜日の朝に放送されている子供向けの戦隊ヒーローが活躍する番組だ。
菜子も弟と一緒にほぼ毎週欠かさず見ているその番組は、やはり高校にもなるとほんの少し個性的な趣味に思えるらしい。


 4月の初めには、カッコイイ外人がいる、なんて噂されていたようで、レオを一目拝むために、よく1組に男女問わず多くの生徒がドアの前にいたけれど、5月も半ばになると、そのほとぼりもすっかり冷めてしまっていた。


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