偽りのヒーロー


 楽し気に数日前のことを話すレオに、結城は呆気に取られていた。ぽかんと開いていた口は、次第にへの字に結ばれて、額に青々と血管が浮き出て見えるほど不機嫌になっている。



「うけねえわ。そういうこと聞いてるんじゃねえし。人に返信もしねえでお前と遊ぶってなんなんだよ、まじで」



 水気を含んで柔らかくなった炭酸の入った紙コップを握りしめた。結城の苛立った様子に「ごめんごめん」と屈託のない笑顔を向ける。

レオの笑顔に毒牙の抜かれた結城は、椅子に背を預けもたれかかった。はあ、と小さくため息をつくと、狭いテーブルの下で足を組み替える。



「菜子とつき合うの?」



 何の気なしに菜子を庇うようなレオの一言に、違和感を覚えたのはほんの一瞬のこと。レオのことだからい深い意味はないのかもしれないが、どうにも気にかかり態度に出てしまう。



「なんでレオがそんなん気にするわけ」



 不愛想な結城の態度に、レオは苦笑した。そんなに怒るなよ、と目を細めながら。



「紫璃の元カノは違うけど、菜子は友達だしさあ。だいたい紫璃と菜子がいろんなことするのかと思うとそわそわする……」

「想像すんな。変態かよ」



 自分の身体を抱きしめるような素振りを見せるレオが、ぞっとした顔をしている。そんなレオを見て、結城はげらげらとお腹を抱えて笑っていた。




 お腹が満たされた帰り道、ゆっくりと家路を歩いていた。夕暮れの暑さの残る風を感じながら、ポケットの中で震える携帯を確認すると、レオの浮かれた連絡に笑みが漏れる。



「玉砕覚悟ってことかよ……。あいつ意味わかって使ってんのか?」



 「百折不撓」の文字に、レオが大好きな戦隊もののヒーローが決めポーズをしているスタンプ。

制止しているのか応援しているのかどっちだよ、と画面を見て目を細めた。


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