偽りのヒーロー
最初の会話はぎこちないものであった。
菜子の連絡の遅さに対しての、叱られているかのように思えた意見、いわば文句だった。終始肩身を狭くして、ごめんと呟けば、謝ってほしいわけではないと結城はそっぽを向く。
次の日は、バイトに通いがてら聞く音楽の話。互いに聞いているCDの貸し借りをして、それは今でも続いている。
その次の日は、偶然会った、結城の元カノの話。結城の隣を歩く菜子を、不相応だと感じたのだろう。
「ふっ、その子何? 紫璃と全然合ってないんだけど、どうしたのよ」
鼻で笑うその女性は、制服姿に身を包んではいなかったが、加藤先生、と知った学校の教員の話が聞こえてきて、どうやら同じ学校の人らしいことは理解できた。
加えて綺麗なメイクと、すらっと伸びた足をより長く魅せる7cmほどのヒールのサンダル。
夏らしくキラキラとしたペディキュアを見て、動きやすさを重視したスポーツブランドのTシャツを着た自分が、なんとなくみすぼらしく感じられて、静かに一人その場を離れた。
離れた場所で、数分ほど結城を待つべくうろうろしている菜子に、「真面目か」と笑われて、帰るべきだったのかと頭を悩ませることもあった。