偽りのヒーロー
数日後、しばらくバイト先に姿を見せなくなっていた結城が、再び訪れた。
何もなかったかのような態度に、菜子はまごまごとしていたが、手渡された、聞きたいと菜子が言っていたCDを見ると、「ありがとう」と、顔を綻ばせた。
「何で言わなかったんだよ」
突然切り出す結城の言葉に、菜子は首を傾げた。口を尖らせ、いつもは伸びている背中を丸め、落ち着かない様子で歩みを進めていた。
「何の話?」
求めていた返答ではなかったらしい。言葉を濁した菜子に、苛々を募らせていたように、重ねてひどく言い辛そうに、小さな声で、口を開く。
「やべー! 気持ちいい! もっかい乗ろうぜ」
男数人で遊びに行った大きなプールは、ウォータースライダーや波打つプールのある、夏にうってつけの遊び場だ。人混みで体感の上昇した身体に、冷たい水が心地いい。
地上数メートルの高さから、一気に流れ落ちる快感を、結城は何度も滑り落ち、既に疲弊していた。
列を成して並ぶ前の女性の豊満な体に、多感な高校生らしく一緒にいた友人達は、「声かけちゃう?」と顔を見合わせて、意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「や、俺は菖蒲ちゃん一筋だから!」
大勢いる中でも、背の高いレオは声をかけずとも女が寄ってくる。
現に一時間ほど前、昼飯を買いに行って並んでいる最中に、年上らしき女性から声をかけられていた。
「ずりいよなー。レオも紫璃も女に困ったことねえだろ!」
別に、と言葉少なな結城とは対照的に、レオはまんざらでもなさそうに胸を張っていた。
「でもレオは俺らの仲間だもんな!」
同志とばかりに肩を組んで笑う友人達に、あほか、軽くあしらった。