偽りのヒーロー
「なに? なんか用?」
菜子の席に手をつくレオに話しかけた。
おわっ、と悲鳴をあげ慌てふためくと、今にも椅子から転げ落ちそうなくらい体勢を崩してしまっていた。
きょとんした顔で菜子を見て、「なんでわかったの」と、レオが菜子の話をしていたのを知られていて、驚いたようだった。
「なんでって……。聞こえてたよ、レオ、声でっかいんだもん」
微笑みかけると、菖蒲は溜息をもらしていて、頬杖をついていた。
「そんなはずは……。や、じゃなくて、昼メシ食わね?」
購買で買った総菜パンを二つ掲げて、頬にぴたりとつけた。
あざとらしくも思えるその仕草は、綺麗な容姿のおかげで画になっている。
菖蒲も誘ってみたけれど、「私はいいよ」と、他の友人のもとへ行ってしまった。
「レオのせいで、菖蒲行っちゃったじゃん」
ぶつくさ文句を呟いているのにもかかわらず、ずんずん歩くレオの背中についていくと、階段を降りてはあはあ息が乱れる頃には、体育館裏に着いていた。
運動部でもなければ、放課後の掃除当番のときの、ゴミ捨てくらいのときにしか近くに来ないけれど、いざお昼に来てみると、意外や意外、わりに静かで程よい木陰が心地よい。
座って、とぽんぽん地面を叩かれると、レオの隣に腰を下ろした。
お弁当箱を開けて、唐揚げを口に運ぶと、キラキラした青い目がお弁当に視線を向ける。
「……一個だけだよ」
「やりぃ! ラッキー!」
ひょい、と一個の唐揚げが攫われていった。
当たり前のようにご飯を食べるばかりで、何も話しが進まない。
何か話があるのだとばかり思っていたけれど、本当にお昼を一緒に食べるだけだったのかもしれない。
ぺちゃくちゃと他愛もない話をしていると、いつの間にか予鈴が鳴って、ただの楽しいお昼休みとなってしまったのだった。