偽りのヒーロー
「家族と出かけたりするくらいするだろ。この前うちの姉ちゃんも母さんと一緒に買い物行ってたし」
レオの言葉に、不満そうに眉をしかめる。結城の顔を覗いたレオは、おろおろと狼狽え視線を泳がせると、そうだ、と人差し指を立てた。
「この前、菖蒲ちゃんと買い物行ったっつってた。てかカラオケ行ったって言ったじゃん。普通に友達とも遊んでるんじゃないの?」
「……そういうことじゃねえんだって」
「? 何よ? どういうこと? 菜子んち母さんいないみたいだし、3人でいるのも変じゃないだろ」
家族構成など、話したことがない。特別話す必要もないし、聞く必要もない。そのことを誰から聞いたのだと言わんばかりに、レオに問い詰める。
「ごめん、俺も聞いたわけじゃない。菖蒲ちゃんと話してるの、聞いただけ」
両手をあげてひらひらさせるその様子は、降参だと言っているような体勢だった。別に親がいようがいまいがどうでもいい。いや、どうでもいいということではないが、それをレオが知っているのに、自分が知らないことが気に食わない。
不機嫌になった結城を宥めるように、レオはスライダーへと歩みを進めていた。「顔こえーよ」と、友人に指摘されるまで、自分の眉間に至極深い皺が刻み込まれているのに気づかなかったからだった。
「あれ? 私、言ったっけ?」
けろりと話す菜子に、結城は苛々を募らせる。威圧するその態度に困ったように笑みを浮かべて、結城の言葉を待っていた。
「隠すこともでもないかもしれないけど、言う必要もないことだし……」
苦笑すると、口を閉ざした結城に、痺れを切らして口を開く。
「……そんなに頼りねえのかよ」
ぽつりと小さく漏らした結城の言葉に、菜子は目をぱちくりとさせていた。