偽りのヒーロー
「菜子、落ちた」
「おわっ、ごめんごめん。ありがと」
「栞? 可愛いね」
読みかけの文庫本に挟んだ栞が、ひらりと床に落ちた。押し花をあしらった栞は、菜子のお守りみたいなもの。
レオが拾った栞を、菖蒲が覗き込む。慌てて手を引っ込めたレオに「返してよ」と苦笑した。菖蒲が可愛いと言ってくれたのには、胸を張りたくなる。可愛いものに目がない菖蒲のお眼鏡に適ったのかと思うと、隠しれない笑みが漏れた。
「あー、席替えしたくねー!」
長い手足で机を掴んで、頭をのせる。じたばたともがいたところで、どうしようもないのだが、レオはなけなしの抵抗を見せていた。
落ち込むレオの想いは必至だ。こんなに菖蒲に近い席で、視線をあげたら窓から入った風に靡く好きな人の背中を見られるだなんて、さぞかしベストポジションなことは間違いない。
くじを引いて、ざわざわと教室中が騒ぎ出す。
黒板に書かれた番号と、手に持った紙の番号を照らし合わせると、どこか色めかしい雰囲気になる。あの子とあの子つき合ったな、とか、あそこは今ひとつ進展してないのかな、なんて、ちょっぴりわくわくしてしまうのも、また一興だ。
「菖蒲どこだった?」
「最悪。私、廊下側……。菜子は?」
「私一つ後ろの席〜。ラッキーだ!」
引いたくじを菖蒲と見せ合う菜子。「いいなあ」と、恨めしそうにくじを見つめる菖蒲に、「いいでしょ」と、言わんばかりの意地悪な笑顔を返した。