偽りのヒーロー
菖蒲とほぼ反対に位置する席になってしまった菜子は、少しだけ寂しい気持ちになる。しかしながら、菖蒲の斜め後ろの席になったレオは舞い上がって小躍りをしていた。
ガタガタと机を移動させて、新たな席へと浮足立つ教室。菜子は机をほんの少し後ろにずらしただけで、早々に移動は完了していた。暇を持て余した菜子は、遠く離れた菖蒲に手を振ると、自分への挨拶だと勘違いしたレオが手を振り、思わず苦笑した。
「ふーん。俺、菜子の隣じゃん」
菜子の隣の席に腰を下ろす、人目を惹き付けるその容姿。
夏休みの前は、苗字で呼ばれていたその名前が、急に下の名前となって口から出て、周囲の生徒から視線を感じる。きっと休み時間になったら、クラスメイトに紫璃との関係を問いただされるかもしれない。
覚悟の上で迎えた5分休みには、特に紫璃のことを問われることもなく、夏休みの出来事を話したりだとか、お菓子を交換して事なきをえた。
しかし、昼休みになってその席を離れた途端に、女子連中に根ほり葉ほりと聞かれた暁には、ただただ狼狽えるしかできなかった。
クラスメイトの女子に解放されて間もなく、隣の席に座る紫璃を見て、なるほどと菜子は一人頷いた。話題の渦中にいる人の前では、そうそう聞くことも憚られる。整ったその顔は、モテることに慣れきった余裕を感じる。
ため息をついた菜子に、結城は不思議そうに首を傾げていた。